前回の記事
で、腱と筋肉との複合体(以下複合体)に若干の弛み(Slack)がある状態、この弛みにより力の伝達に時間的な遅れが生じること等が、マッスルスラックと呼ばれていることを紹介しました。
さらに、短時間で打球を完了させなければならない場合、複合体の弛みがない状態で動作を開始し、動作開始とともに速やかに張力を発揮させたいという話をしました。
このためのヒントになることが、前回紹介した本「コンテクスチュアルトレーニング」に書かれているので、一部紹介します。
反動動作
まず紹介されているのは、みなさんご存知の反動動作を利用することです。
つまり、
- 意図する運動と反対方向(逆方向)への運動を最初に行うことによって、
- 意図する運動の方向(正方向)に働く複合体に予備緊張を与え、
- 正方向への運動が開始される時に複合体の弛みが無い状態にする
わけです。
このためには、逆方向への運動のための時間が必要です。卓球に活用するためには、短時間で動作するために、逆方向への小さなスイング動作(小さなバックスイング)によって複合体に予備緊張を与えることが必要です。
しかし、バックスイングを小さくしても、そのための時間が必要なことに変わりはありません。この時間をさらに減らすことはできないでしょうか?
共収縮
もう一つ紹介されているのが、共収縮を利用することです。
共収縮とは、主働筋(正方向への動作に中心的に働く筋肉)と拮抗筋(逆方向への動作に中心的に働く筋肉)とを同時に収縮させることです。
例えば、上の図で、下側の筋肉(上腕三頭筋)である主働筋*1と、上側の筋肉(上腕二頭筋)である拮抗筋とを同時に収縮させることを共収縮といいます。
共収縮は、複合体が動作させる関節(上の例では肘関節)の安定化のために重要な役割を果たします。
この共収縮を、
- 正方向への動作の前に共収縮の状態をつくり、
- 正方向への動作を開始しようとする時点で拮抗筋の活動を止めることによって、
- 複合体の十分な予備緊張を得る
ように利用します。
これにより、主働筋を含む複合体の弛みがない状態で動作を開始し、動作開始とともに速やかにその複合体の張力を発揮させるわけです。
共収縮の利用の重要性等
この本によると、
この技術の実行とタイミングは高度に複雑で、習得には相当の学習が必要である。
半面、
マッスルスラックと共収縮とのかかわりは、スポーツのパフォーマンスを決定する要因として最も重要なものの1つ
であり、
効果的な共収縮すなわち身体の緊張状態を学習するための運動...がデザインされることが必要である。
そうです。
推測
この話を読んで思い浮かべたのが、伊藤美誠選手です。
伊藤選手は、かつてみまパンチ
と呼ばれていたように、コンパクトなバックスイングから強打を放ちます。
上の例に限らず、伊藤選手の動きを見ると、しなやかさをあまり感じない反面、突然ラケットが動き出す唐突さを感じます。
おそらく、伊藤選手は、共収縮を上述のように利用している度合いが他の選手より高いと思われます(筆者の主観です)。
(たぶん続く)