フリーハンドの使い方(フォアハンド)
先日、「卓球におけるフォアハンド技術の筋電図的研究」という研究報告を見つけました。
20年ほど前の研究ですが、フォアハンドスマッシュについて、熟練者(小野誠治選手*1)と経験者(国体出場経験がある選手等)の筋電図を比較しています。
熟練者と経験者との相違点
この研究結果によると、熟練者と経験者との間で次の2点が大きく異なります。
- ラケットハンドの肘の角度
- フリーハンドの使い方
ここでは、フリーハンドの使い方に着目して内容を紹介します。もし認識違いがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
フリーハンドの使い方
この研究結果によると、
そうです。これは、経験者に見られない特徴だそうです。
放電があるとは?
放電があるということは、筋肉が収縮していることを意味します*2。
つまり、上の文章は、フォアハンドスマッシュのインパクト直前に、フリーハンド側の三角筋後部が収縮していることを示しています。
三角筋後部とは?
三角筋とは、ざっくりいうと肩の周辺の筋肉です。このうち、三角筋後部は、
の「4、三角筋後部の構造と機能」に示される部分で、肩甲骨の上部から上腕の中部外側についている筋肉です。これまたざっくりいうと、肩の周辺の背中側の筋肉です。
この三角筋後部の機能は、
肩関節の伸展(前習えから気をつけになる動き)、肩関節の外旋(上腕を外側にひねる動き)、肩関節の水平外転(前習えから手を広げた状態になる動き)そして、肩関節の外転になります。
です。
フリーハンド側の三角筋後部が収縮しているとは?
上述した内容と、研究報告の図2のイラスト(小野選手のスマッシュのフォーム)とを参照すると、「フリーハンド側の三角筋後部が収縮している」は、フリーハンド側の肩関節が主に水平外転するように筋力が発揮されていることを示しています*3。
肩関節の水平外転については、以下のWebページを参照ください。
フリーハンドの使い方の詳細
ここまでの話から、身体の前に伸ばしたフリーハンドを身体の前方(図2の2の位置)から側方(3の位置)に引くために三角筋の後部が働いていると、最初に思いました。しかし、この理解は適切でなさそうです。
図2を参照すると、三角筋後部の放電は、大きく2回に分けて現れていることがわかります。このうち、インパクトの直前に上腕骨の引き動作(フリーハンドを引く動作)をしている点が小野選手のスマッシュの特徴の一つだと、この研究は結論付けています。
この動作がイメージできないので、小野選手のスマッシュを動画で見てみましょう。 www.youtube.com
ロビング打ちの動画ですが、インパクトより前だけではなく、インパクト~インパクト後もフリーハンドが大きく動いているように見えます。インパクト直前にフリーハンドを引く動作が入っていてもおかしくなさそうですが、よくわかりません。
フリーハンドを引くことによる作用と効果は?
研究報告には、以下のように記載されています。
これにより、フリーハンド側の上腕骨の引き動作による躯幹の捻り動作を有効に利用して、よりスピードのあるスマッシュ動作を行っており
動画を見ながら考えてみましたが、この説明から作用(動作メカニズム)を理解できませんでした。特に、「上腕骨の引き動作による躯幹の捻り動作」についての説明がないと、理解が難しいです*4。
まとめ
今回紹介した内容は、強力なスマッシュに定評のある小野選手と、国体出場経験があるレベルの選手との間で異なる点です。このため、正しく活用できれば、スマッシュの威力を出したい中級者に有用かもしれません*5。
しかし、選手がこの知見を取り入れようとしたときに、どのようなイメージを持ったり、どのような動きをしたりすればよいのか、見当がつかないのが残念な点です。単純に「インパクトの直前にフリーハンドを引く」、「フリーハンドを2回引く」(三角筋後部の放電が大きく2回に分けて現れているから)と意識すると、スイング全体がバラバラになりそうです。